JARVISはもう作れるのか——ローカルLLMと常駐するAIの2026年10月
「ローカルAI」には、言語や地域に強いAI、国や地域が持つAI、手元の端末で動くAIの3つの意味があります。
「Hey Jarvis」と呼ぶと起きる音声アシスタントは、公開されている部品を組み合わせて個人でも組めるようになりました。
常駐するAIが増えると、人が検索する前にAIがホームページを調べに来る場面が増えていきます。
AIに任せる範囲が広がっても、最後に決めるところは自分でやりたいと考えています。
目次
この秋、OpenAIは常時動き続けるAIを発表しました。GitHubには「Hey Jarvis」と呼ぶと起きる自作のAIアシスタントが並んでいます。少し前までSFの中にあったものが、ふつうのPCで組めるようになってきました。
僕はJARVISを自分のPCに置きたいほうの人間です。
巨大なAIは相変わらず大きくなっている
OpenAIは9月29日の開発者向けイベントで、GPT-6.1 Solと「Dots」を発表しました。Dotsは、OpenAIの言い方では常時稼働のエージェントです。まずは有料の上位プランから始まると報じられていて、日本で使えるかどうかは、まだ確かめられていません。
Googleは9月30日に「Gemini 4 Argon」を発表しました。長い時間がかかる複雑な仕事、ソフトウェア開発、法務や財務、サイバー防御に向けたモデルだと説明しています。ただし誰でも使えるわけではなく、いまはサイバー防御に関わる一部の組織への先行提供です。
どちらも今後の動向が気になりますが、いま気になっているのはローカルAIです。
ローカルAIという言葉は3つの意味で使われている
「ローカルLLM」「ローカルAI」と聞いたとき、人によって思い浮かべているものが違います。少なくとも3つあります。
1つ目は、ある言語や地域に強いAI。日本語と日本の仕事に合わせたモデルがこれです。
2つ目は、国や地域が自分たちで持つAI。他の国の会社のサービスだけに頼らず、自分たちのデータと設備で動かそうとするもので、ソブリンAIと呼ばれています。
3つ目は、自分のPCやスマホの中で動くAI。データを外に送らず、手元の端末だけで文章も音声も画像も扱います。
この3つが、いま同時に伸びています。順番に書きます。
日本語のためのAI「Sakana Namazu」
Sakana AIは2026年8月3日、「Sakana Namazu」のAPIの提供を始めました。Namazuそのものは、それ以前から同社のチャットに搭載されていたモデルです。
おもしろいのは作り方で、Sakana AIの説明ではMoonshot AIが公開しているオープンモデル「Kimi K2.6」をベースにして、社内のデータで日本語と日本の業務の文脈に合わせています。Web検索とコード実行のツールも、最初から付いています。
ゼロから国産のモデルを作ったのではなく、世界で公開されている良いモデルを土台にして、日本向けに再構築した。このやり方には納得しました。
日本の会社がAIに頼みたいのは、敬語、契約書、社内の文書、業界の言葉、あいまいな言い回しです。試験の点数がいちばん高いAIより、日本の仕事の空気が分かるAIのほうが使いやすい場面は、日常的にあると思います。
国ごとにAIを持とうとする動き
ヨーロッパ発のMistral AI。ロイターによると、CEOのArthur Mensch氏は10月6日にアブダビで、その日に発表するモデルは「サイバーを含むいくつかの面で中国のモデルを上回る」と話しました。ただ、どの中国のモデルと、どんな基準で比べたのかは説明していません。なので、この発言だけで性能の上下は決められません。
中国ではDeepSeekが動いています。9月末の報道では、Huaweiの半導体「Ascend」で動かすためのソフトウェアを、いくつもまとめてオープンソースで公開しました。報道はこれを、NVIDIAへの依存を減らす動きとして伝えています。DeepSeek自身の発表文は、確認できていません。
モデルだけでなく、半導体、それを動かすソフト、データセンターまで自前でそろえようとしている。「ChatGPTとGeminiのどちらが賢いか」だけでは、もう説明がつかなくなってきました。
地域の自治体でもAIの導入が始まっている
Googleと東京大学の松尾・岩澤研究室は、2024年6月から、自治体と一緒に生成AIで地域の課題に取り組むプロジェクトを続けています。Googleの9月29日の発表では、2026年9月の時点で40を超える自治体と対話を重ねていて、9つの自治体の事例が公開されました。
| 自治体 | 内容 | 状況 |
|---|---|---|
| 京都府 | 住民に合った学習プログラムを提案する | 実装 |
| 北海道南富良野町 | SNSや観光事業者の発信も参照して観光を案内する | 試作 |
| 島根県美郷町 | 町のホームページを検索して住民の質問に答える | 試作 |
| 山口県 | 企業のDXの相談を受ける側を支援する | 試作 |
京都府は実際に動いていて、ほかの3つはまだ試作です。「日本のことを知っているAI」から、「この町のことを知っているAI」へ。
AIそのものを大きくするより、その土地の情報と、聞いている人の事情を組み合わせるほうが役に立つ場面は、これから増えていく気がします。
Hey Jarvisで起きる自作のAI
JARVISを自分で作った人といえば、Facebookのマーク・ザッカーバーグさんです。2016年の個人目標として、映画『アイアンマン』から名前を取った「Jarvis」を、約100時間かけて作りました。声や顔を認識して、家の照明や温度、音楽を動かすアプリです。
GitHubには、「Hey Jarvis」と声をかけると起きるAIアシスタントのプロジェクトが、いくつも公開されています。たとえば「JarvisAi」というプロジェクトのREADMEには、完全に手元で動く音声アシスタントで、クラウドは要らない、と書かれています。
READMEによると、組み合わせはこうです。
・呼びかけの検知:openWakeWord
・音声の聞き取り:faster-whisper
・考える部分:Ollamaで動かすQwen
・声で返す部分:Kokoro
・画面の読み取り、PCの操作、Web検索、ファイルの操作などのツール
以前から存在していたツールやサービスですが、これらを組み合わせると、声で呼んで、聞き取って、考えて、PCを動かして、声で返す、がつながります。2016年にFacebookのCEOが1年の目標にしたものに近い部品が、いまは公開されていて、個人でも組めます。
READMEを読むかぎり、画面を「見る」のは文字の読み取りで、Web検索にはネットの接続が要ります。「全部がPCの中だけ」と言い切れるものではなさそうです。
個人の開発者がここまで組めるようになった、というのは驚きました。
SiriとJARVISは何が違うのか
SiriやAlexaも前から声に反応して動きますが、違うのは、頼める内容です。
これまでの音声アシスタントが得意だったのは、「タイマーを3分」「音楽を流して」「明日の天気は」のような、決まった命令です。
LLMで動く常駐のAIには、もっとあいまいに頼めます。
「この画面を見て、何がおかしい?」
「このフォルダを整理して」
「今日の予定とメールを見て、先にやることを決めて」
さらに記憶を持てば、こちらがふだんどう仕事をしているかも覚えていきます。音声で動く道具というより、秘書に近いものです。
実現したいのはラファエルさん
JARVISもいいのですが、僕の理想は『転生したらスライムだった件』の智慧之王(ラファエル)です。聞いたことに答えるだけではなく、状況を見て、分析して、選択肢を出して、こちらが気づいていないことまで教えてくれる。
現実のほうも、その方向へ進んでいます。Googleは2026年7月、日本でも「Gemini Spark」の提供を始めました。Googleの説明では、24時間いつでもサポートするパーソナルAIエージェントで、パソコンを閉じているときやスマホがロックされているときも、バックグラウンドで動きます。有料プラン向けで、支払いやメールの送信の前には必ず確認を求める作りだそうです。
聞いたら答えるAIから、ずっと横にいるAIへ。この変化は、性能の数字よりずっと大きいと思っています。
その先にあるのがPSYCHO-PASS
もう少し先まで考えると、『PSYCHO-PASS サイコパス』の世界が見えてきます。
作中のシビュラシステムは、人の心理の状態を数値にして、社会を管理する仕組みです。監視官と執行官(作中で警察官にあたる役割)が持つドミネーターは、相手に向けるとその場で犯罪係数を測ります。
もちろん、現実にあるものではありません。ただ、カメラの映像から人を見分ける技術も、声や体の状態をセンサーで読み取る技術も、集めたデータをAIがその場で分析する技術も、それぞれ別々にはすでに実用になっています。
ドミネーターの仕組みが現実味を帯びてきていて、興味があります。
ONE OK ROCKの『DETOX』が描いたAIの世界
ここで思い出すのが、ONE OK ROCKの『DETOX』です。2025年2月21日に出たアルバムで、「Dystopia」が入っています。
ブックレットのストーリーでは、人間が「AIの神」を作ります。問題は次々に片づいて、世界は豊かになる。そのうち人は、判断することも考えることもAIに預けはじめます。
おもしろいのは、ONE OK ROCKがAIを嫌っているわけではないことです。「Dystopia」のミュージックビデオは、アルバムより前の2024年11月に公開されていて、テーマは「AIによる未来のディストピアを、AIと共に創造する」。生成AIを全編に使っています。
MVを制作したStink Films Tokyoの谷ヶ崎深志さんは、ファンサイトのインタビューで、AIを使いたいと相談したときにTAKAさんから言われた一言を紹介しています。「魂を感じるAIにしてほしい」。体温を感じられる映像にしてほしい、という注文だったそうです。この一言が、最後まで制作の軸になったと話しています。
AIを使うな、ではなく、AIに全部を預けるな。そういうメッセージだと受け取りました。
任せることと一緒に考えること
AIが賢くなるたびに、「これもAIにやってもらえる」が増えてきました。メールを書く、調べる、コードを書く、予定を並べる。
これからは、決めることにもAIが入ってきます。仕事の順番、買う物、会う相手、受ける治療。
AIに情報をまとめてもらう。選択肢を出してもらう。ここまでは、ただ便利です。でも「AIが言ったからそれにする」になったとき、自分で決めるという工程が抜け落ちます。『DETOX』が描いていたのは、たぶんここです。
自分専用のAIが、メールも予定もファイルも、家族の予定も健康のデータも知るようになったら、それはほとんどもう1人の自分です。便利になるぶん、とても大きな権限を渡すことになります。
だから、ローカルAIの話は性能だけの話ではないと思っています。誰のAIを使うのか。データをどこに置くのか。何を覚えさせて、どこまで決めさせるのか。自分の手元で管理できるAIがほしい、という気持ちは自然だと思います。
ホームページを作る側から見ると
常駐するAIが増えると、ホームページを読みに来るのは人だけではなくなります。人が検索する前に、AIが調べて、比べて、候補をしぼって、結果だけを人に返す。そういう場面が増えていきます。
そのとき、料金、サービスの内容、対応している地域、営業時間、実績、よくある質問があいまいな会社は、AIから見ると比べようがありません。
AIOやLLMOは、ChatGPTに名前を出してもらうための小技ではないと考えています。AIが下調べをするのが当たり前になったときに、自分の会社を正しく判断してもらえる材料を、Webの上に置いておくこと。やることは地味です。
10月に、ChatGPTの地図で「高砂市のホームページ制作会社」と聞いたら、当社が出てきました。答えの文章に付いていた説明は、当社のサイトに書いてあることの言い換えでした。サイトに書いたことは、ちゃんと読まれています。
攻殻機動隊の世界が近づいてきた
声で呼べるAI。考えるのを手伝ってくれるAI。町のことを知っているAI。自分のPCの中だけで動くAI。24時間こちらの様子を見て動くAI。
少し前までは、全部SFでした。いまは、音声の聞き取り、画像の認識、ローカルLLM、長い記憶、PCの操作、Web検索を組み合わせれば、かなりのところまで作れます。
僕は便利なほうへ行く気満々です。ラファエルさんはほしいし、ドミネーターの仕組みも気になるし、JARVISもPCに置きたい。
だからこそ、最後に決めるところだけは自分でやる。その感覚は残しておきたいと思っています。
ITの仕事をしている人間としては、どうしても言いたくなります。いよいよ『攻殻機動隊』の世界が近づいてきました。趣味に走りすぎたかもしれませんが、ここは外せませんでした。
よくある質問
ローカルLLMとは何ですか?
クラウドのサービスにデータを送らず、自分のPCや社内のサーバーで動かす言語モデルのことです。ただ「ローカルAI」という言葉は、日本語や地域に合わせたAI、国や地域が自前で持つAIの意味でも使われています。話している相手がどの意味で言っているかを確かめると、行き違いが減ります。
JARVISのようなAIアシスタントは、自分で作れますか?
部品はそろっています。公開されているプロジェクトには、呼びかけの検知、音声の聞き取り、ローカルで動く言語モデル、音声での返事を組み合わせたものがあります。ただし当社ではまだ動かして確かめていません。READMEを読むかぎり、Web検索にはネットの接続が要るなど、全部がPCの中で完結するとは限りません。
常駐するAIが増えると、会社のホームページは何を変えればいいですか?
特別なことより、料金、サービスの内容、対応している地域、営業時間、実績、よくある質問を、はっきり書いておくことだと考えています。AIが下調べをするとき、あいまいな会社は比べる材料がありません。当社の観察でも、ChatGPTの答えに付いた当社の説明は、サイトに書いてある内容の言い換えでした。
出典: OpenAI DevDay 2026(2026年9月29日・GPT-6.1 SolとDots。報道経由)/Google「Gemini 4 Argon」公式ブログ(2026年9月30日)/Sakana AI「Sakana Namazu API」(2026年8月3日)/ロイター(2026年10月6日・MistralのMensch氏の発言)/ロイター、The Decoderほか(2026年9月29日・DeepSeekとHuawei)/Google Japan Blog「AIローカルプロジェクト」(2026年9月29日)/grape(2016年12月28日・ザッカーバーグ氏のJarvis)/TechCrunch(2016年12月19日・同)/GitHub PanPenek/JarvisAi/Google Japan Blog「Gemini Spark」(2026年7月29日)/ワーナーミュージック・ジャパン ONE OK ROCK『DETOX』/ONE OK ROCK Lyrics Repository「Dystopia」MVのエグゼクティブプロデューサー 谷ヶ崎深志さんへのインタビュー(ファンサイト・2024年12月24日)/『転生したらスライムだった件』公式サイト/記述は2026年10月7日時点で照合しています
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