バンド向けサイト制作プランを初期3万円にするまで——価格を決める前にやった競合調査
新しいサービスの価格は、一番最後に決めるようにしています。先にやるのは、検索の需要の質を見ること、競合を層で並べること、そして「解約したらどうなるか」まで調べること。当社がバンド向けサイト制作プラン(初期3万円・月1,980円)を作ったときの調査と判断を、記録として残しておきます。
納得感のある費用設定とは
きっかけは、手元にバンドサイトのデザイン案が溜まっていたこと。これを商品にできないかと考えたとき、頭に最初に浮かんだのは「初期3万円・月3,000円なら売れそう」という値段だった。
でも、そこで一度止めた。先に値段を置くと、そのあとの調査が全部「3万円を正当化する材料集め」になる。競合がもっと安かったら目をつぶるし、需要がなくても気づかないふりをする。だから値段は仮説のまま置いておいて、先に市場の構造を調べることにした。2026年7月、プランを公開する前に丸一日かけてやった調査の中身が、この記事のもとになっている。
調査1:サジェストで需要の質を見る
最初に見たのは、検索ボリュームではなくサジェスト(検索候補)だった。キーワードツールの数字より先に、みんなが何と一緒に検索しているかを見るほうが、需要の「質」がわかる。
つまりこの市場にいるのは、頼みたい人ではなく自分で作りたい人。「バンド ホームページ制作」で検索上位を取っても、そこに立っている人は少ない。この時点で、集客の中心は発注クエリではなく「作り方」を調べている人の受け皿になることだと、方向が決まった。売り込みのLPを用意するだけでは、たぶん届かない。
調査2:競合を3つの層に並べる
次に競合。個別に眺めるのではなく、価格と提供形態で層に分けて表にした。
| 層 | 価格帯(2026年7月時点) | 特徴 |
|---|---|---|
| 音楽特化SaaS | 月500〜2,860円 | テンプレートから選んで自分で構築。上位サービスは独自ドメイン・チケット管理まで対応 |
| テンプレ買い切り | 数千〜数万円 | WordPressテーマ等を購入して自分で設置・運用 |
| オーダー制作 | 初期5万〜10万円以上(一般相場は20万円〜) | デザインから任せられる。音楽特化をうたう会社は安め |
表にして最初に驚いたのは、月2,860円で独自ドメインからチケット管理まで揃うサービスがすでにある、ということだった。仮説の「初期3万・月3,000」は、この層と月額がほぼ同じで、初期費用だけ3万円高い。価格で比べられたら勝ち目がない。ここで一度振り出しに戻る。
調査3:アーティスト側の本音と現実的な予算
仕上げに、買う側の実態を調べた。音楽系メディアの論調は「活動初期のバンドにホームページは不要。SNSとリンクまとめで十分」が主流だった。売り手としては都合の悪い事実だけど、これを無視して作ったLPは嘘くさくなる。
財布も見た。バンドはスタジオ代とライブのノルマで、続けるだけで毎月1〜2万円が出ていく活動。サイトに割ける金額は、その残りでしかない。僕自身も昔バンドをやっていたので、ここは調べるまでもなく体感があった。数十万円のオーダー制作が現実的でないのは、能力の問題ではなく支出構造の問題だと思う。
解約時にも柔軟性を持たせたい
価格で並べないなら、別のところで力を出せる場所を探すことになる。競合の表に「やめたときどうなるか」という列を足してみたとき、方向が決まった。
月額型のサービスは、解約するとサイトごと消える。何年分のライブ記録もディスコグラフィーも一緒に。一方で当社の作り方は静的HTMLの納品なので、解約されてもデータ一式を渡せば、別のサーバーでそのまま公開を続けられる。これは当社が優れているという話ではなく、月額でサイトを預かるモデルとは前提が違うというだけ。ただ、買う側から見れば小さくない違いだと思う。
もうひとつは、デザインを一から起こせること。音源を聴いてタイポグラフィと配色から組み立てるやり方は、手間はかかるけれど当社が普段やっていることでもある。勝てる場所はこの2つだったので、LPの訴求もこの2点に絞った。機能の数や安さは売りにしないと決めている。
それなら作ってみようと思ってもらえるかどうか
ここまで調べて、ようやく価格に戻る。初期費用は3万円のまま生かした。理由は、バンドマンにとって馴染みのある支出の単位——ライブのノルマ1本分——に収まるから。金額そのものより、相手が普段使っている「単位」に載るかどうかのほうが、高いか安いかの判断を早くしてくれる気がする。
月額は、仮説の3,000円から1,980円に下げた。競合が月2,860円なので、同じくらいの金額で数百円だけ高いより、はっきり安いほうが迷わせないと思ったから。ただ1,980円は、素のサーバー代と考えるとまだ高い。だから月1回の更新代行を中身に入れた。バンドのサイトが死ぬ一番の原因は更新が止まることなので、月額が「止まらないための費用」になるなら、払う意味を説明できる。あとから上位プラン(初期15万円・複数ページ・CMS付き)も足して、3万円が真ん中に来る形にした。
もうひとつ気をつけたのが、既存サービスとの分離だった。当社の通常のWEB制作は10万円からで、同じ導線に3万円のプランを並べると、どちらの価格も説明がつかなくなる。だからバンド向けは専用ページに切り出して、本体の料金表には載せていない。
まとめ
やったことを抜き出すと、手順は4つになる。
1つ目、サジェストで需要の質を見る。数字の大小より、何と一緒に検索されているか。発注系の言葉がなければ、その市場は「売る」より「教える」から入ることになると思う。2つ目、競合を層で表にする。個別に眺めるのではなく、価格帯×提供形態で並べると、自分がどこと比べられるかが見えてくる。3つ目、表に「やめたときどうなるか」の列を足す。構造の穴は、契約のときより解約のときに見つかることが多い。4つ目、価格は最後に、相手が普段使っている支出の単位に合わせて決める。
今日できることをひとつ挙げるなら、自分の業種名でサジェストを確認して、競合3社の解約条件を調べること。両方あわせて30分ほどで終わりますし、たぶん1つは意外な発見があると思います。
この調査から生まれた実物はバンドのホームページ制作で公開しています。自社サービスの見せ方や価格設計についての相談はお問い合わせフォームからどうぞ。